キセキgozoCine; vol.1 ~堪能編~
2008年 07月 06日
先日7月1日に吉増剛造展関連の4回目のイベント
キセキgozoCine; vol.1に行ってきました。
イベント前、吉増さんにご挨拶することができた私は
開始前から興奮していました。“堪能編”では、イベントの様子を書きます。
では講師の方々を紹介します。
吉増剛造(詩人)×工藤正廣(北海道大学名誉教授)
さすがに4回目ともなると、お客さんの入りもあまり良くありませんでしたが、
その分、熱意をもって足を運ばれている方が多いように思われました。
さて、無事確保した最前列席。そこは吉増さんの席の目の前でした。
始まる直前の吉増さんの表情、とても厳しくて、思わずこちらの身が固くなりました。
もちろん、イベント開始と同時にその表情は崩れてしまいました。
いったいあの厳しいお顔は何なのだろうと不思議に思います。
まずはじめのお話は、6月30日に行われた鼎談(私は行けませんでした…)について。
鼎談をテープに記録したという吉増さん、
「夢中になって話して、夢中になって聞いていて、でも本当は聴いていないんだね。
あとからテープレコーダーで聴くと、マイナスの耳が聴かなかった部分がわかる。
カフカはそういうこと知らないんだろうな、と思いました」
記録する時代に生まれた自分たちだからこそ、
きっとマイナスの耳を働かせることができる。
そこにこそ、本当の「聴く」があるのかもしれません。
その日も“今日限り”資料が配られました。
「パステルナークのねむる丘」という
ロシアの詩人・小説家パステルナークの家(記念館)を訪ねた際のエッセイと
吉増さんの代表作である長編詩「石狩シーツ」。
ホタテそば(900円)を食べながらお店のカウンターで書いたというお手紙(笑)によれば、
これらについて吉増さんは昨夜“気付き”があったといいます。
お話を聞いていて、よく繋がらなかったのですが、
はじめにその“気付き”をむかえたのは吉増さんだったのか、
工藤さんだったのか……。
たぶん工藤さんが気付いて吉増さんにお電話をした、という流れだったと思います。
はっきりしません、ごめんなさい。
「パステルナークの家に行ったときのエッセイを読み返していたら、
“シーツの清々とした乾いた肌ざわり”ということばがあって、
『はぁ、これは石狩シーツの素なのかぁ?』『これはそうだ、ロシアのシーツだぜぇ』と正廣さんがおっしゃったんです。石狩シーツの入り口はロシアのシーツだった」
「『石狩シーツ』は自分を追い詰めて決死で書いた詩でした。ことばの響き的に“エロティックな題”と思っていたが実はロシアだったんです」
興奮した吉増さん、そこでいきなり「石狩シーツの」朗読を始めました。
ことばを拾っていくように、ゆっくりと
どこかおくちのこのすがた
この星(ホシ)
ピッチャーもいないのに
うすいヴェール
独特のリズムとアクセント(太字部分)があります。
会場は静まり返って、吉増さんの声のもと、空気が入れ替わるようです。
とまらなくなっちゃいそうだから、
と朗読を切り上げた吉増さん、
「朗読するつもりなかったのに朗読しちゃった」ととても嬉しそうでした。
そして、それまで寡黙であった工藤さんが口を開きました。
「シーツと聞くとロシアの人は雪原を思い浮かべるんです。
ウクライナの緑とシーツの白と……。
“モスクワ”という地名は、ロシア語ではなくコミ語なんです。
先住民族のことばなんです。ちょうどアイヌ語のような。
“イシカリ”もアイヌ語でしょう。だから、モスクワシーツでもいいんじゃないかって。
ハマナスの花、みなさんご存知ですよね。
あのしわしわの花びらはシーツのしわだと思うんです。
リアリズム石狩ではなく、時空外石狩ですよ」
吉増さんは感心しきったようすで
「創作のむこう側にいっちゃうけど、初めて石狩に行った時、真冬でね。
凍っちゃって、川がないんだよ。
その現場でノイローゼになって、ウロウロ動いているとき、エネルギーが生まれたね。
でも、それは書こうとすると離れていっちゃうんだなぁ」
その場でなぜか、私のことを
紹介し始める吉増さん。
「16歳から、こういうスタートもいいですね。
無意識に書くっていうのは恐ろしいことだね」
あ、ありがたい。
無意識に書くことの恐ろしさを、吉増さんは誰よりもよくご存知なのだと思います。
工藤さん
「“シーツ”って聞いただけで、ロシア人はとろけるんじゃないですか。
派生語が多いですから。
そういえば、ある詩人のお子さんがね、吉増さんの朗読CDを聞いて、
『石狩シーツ』を暗記してしまったんですよ。小学校にもまだ入っていない子がです。
いやぁ、すごいですね」
吉増さん
「子どもってことばが分解した瞬間の感じを聴いているんですよ。
“破裂”を聴こうとしているんですよ!」
工藤さん
「ことばの発達のなかでぶつかったものって大きいですからね」
そういえば、私も幼稚園時代、「ブレーメンの音楽隊」の朗読CDを聴いて覚えてしまって、
お母さんに「お話しして」と何度もやらされた記憶があります。
小学生のとき、その録音テープがでてきたので聞いてみたのですが
泥棒を脅かす鳴き声のマネがすさまじかったのを覚えています
“ワンワンニャアニャアコーケコッコー!!”という具合で……笑。
すごい張り切って真似してました。
吉増さん
「四日目になって、ようやく開幕したって感じよねぇ~」
文学館の方
「今日の話は私も目からウロコでしたから」
吉増さんはウロコだなぁ~、ウロコだなぁ~と歌うように同調します。
ロシアシーツの発見は吉増さんにとっても、読者にとっても、記念すべきものでした。
この日は“Gozo Cine”が4本も上映され、十数ページにもわたってノートにメモをとったのですが(吉増さんに「いっぱいメモとったなぁ」とからまれました笑)、
結局この日の一番の収穫は“ロシアシーツ”でしたので、
そこにはあまり触れないことにします。
断片的に映像の中で印象に残ったのは
◆キセキ(残像をひきずる装置)によって、群生する砂漠のサボテンたち。
サボテンのトゲ=「光の棘」(Cineの題名の一部)だと吉増さんはおっしゃっていましたが、
それは、銅版に文字を刻みつける際使用する突起物にも似ていると思いました。
獣の歯のようでもあります。
◆マリリアさん(剛造さんのパートナー)が歌います。
その赤い唇がアップされたとき、宝貝の割れ目が重なりました。
貝も歌いそうですね。
◆キセキによって微妙なブレも残象として波紋のように広がっていきます。
植物を撮ると、常に植物が動めき、成長しているようです。
◆接近がエネルギーを呼ぶ、と吉増さん。
ギターを演奏する手もと、弦をはじく指、が大きく映し出されました。
私は弦楽器を見るとひどく興奮するたちです。
驚いたのは、ギターを弓で弾いていたこと。弓も棘みたいですね。
スポットライトを浴びて、つやつやと光る棘。
どうでしょう、うまく伝えきれたかわかりませんが。
そもそも会場にいらっしゃった人にしか
共有できない興奮だったと思いますので、ご勘弁。
8月8日にvol.3があります。
また、出かけていきたいなと思います。
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by moonpower0723
| 2008-07-06 14:17
| 詩の仕事