震災から一週間、そして日常。
2011年 03月 19日
この一週間、11日の東北地方太平洋沖地震をはじめ、大きな災害が日本を襲いました。
被災された皆さまには心からお見舞い申し上げます。
被災者以外の方々も、計画停電や交通の問題で心を乱されていることと思います。
私自身、被災地の映像を目にする度、心が痛みます。
募金、節電、できることは果たしてそれだけなのでしょうか。
***
その日、私はM氏、T氏とイベントの打ち合わせで、新宿のカフェにいました。
話もひと段落し、そろそろお店を出る頃かと思われたとき、
天井のシャンデリアが大きく振れはじめました。
あ、地震!
次第に揺れは大きくなり、建物ごと激しく揺すぶられ、
お店の奥からはカップなどの割れる音が鳴り響きました。
店員の方に誘導されながら、階段を下りて外に出ると、
あちこちのお店から路地へと吐き出される人の群れ。
群れは頭上を仰ぎながら、ぞろぞろと寄り集まっていました。
男性も女性も、若者も年配の方も皆きょとんとした表情を浮かべ、
「いやあ、大きかったね」と言いながら、ちょっと腰がひけているようでした。
それは何だかおかしな光景で、東北地方で起きていることなどつゆ知らず、
私たちは顔を見合わせて笑ってしまいました。
現実というよりも、何かの映画の一場面のように感じていました。
見ず知らずの若い男性が、恋人らしき女性を引き連れて
「震度はいくつですか」とM氏の携帯を覗き込み、尋ねてきました。
私たちの横では、中華料理店の厨房スタッフらしき中国人たちが
汚れた前掛け姿で、甲高い声でしゃべり続けていました。
泣き崩れる若い女性を抱く、友人らしき女性もいました。
皆、予期せぬ震災に危機感を抱いていたのでしょうか。
知らない人同士が話したり、愚痴をこぼし合っている場面に多く出会いました。
ここが東京であることを思うと、それはとても不思議な光景でした。
M氏らと別れた後、駅のバスを乗る人の列に並びましたが、
ほとんど進まず、列は枝分かれして伸びていくばかり。
目的の列を間違えたまま何時間も並んでしまったひと。横入りしようとするひと。
あちこちで口論が起こり、罵声も飛び交い、
くるしくなりながらも、ようやく停留所にたどり着きましたが、
バスは待てども来ず、あまりの渋滞に、乗ったそばからバスを降りていくひともいました。
結局同じ列に並んでいた、ひとつ年上の女子大生、社会人一年目という男性会社員、
煙草好きなおじさんに助けられながら、歩いて寮に帰宅。
ほっとして食堂のテレビをつけると、信じがたい震災の有様が次々に報じられていました。
押し寄せる水と、燃え立つ炎の映像に飲まれてしまいました。
地震酔いがひどく、度重なる余震で、その夜は一睡もできませんでした。
余震に怯えて、一日中ネットでNHKを見ます。机の下で眠ります。
自分の心配をするので精いっぱいの日々。
13日の夜、ツイッターでこう呟きました。
いまだに何にも手をつけられない。こんなときに原稿の心配をする自分はおかしいのかもしれないが、書かないと確実に迷惑がかかる。日常に戻れる環境にあることに感謝しつつ。
「地震に敏感になっているから詩が書ける」と告げたひとよ。詩が何の役に立つんだよ。私は震える手で数行日記を書いただけで、もう丸2日何も書いていない。ただ眠っていた。
「詩が何の役に立つのか」
「詩が何を救えるのか」
ここ数ヶ月、自分にとって大きな出来事が続きましたが、その度に抱いてきた疑念でした。
それが不安と共に呼び起こされて、私をむしばんでいきました。
「書くことは救いとなる」
今までの経験からそれを実感しながらも、肝心なときに私は言葉がでてきませんでした。
黙って震えていることしかできませんでした。
できるだけ体を小さくし、仄暗い方へ身を寄せていきました。
どこまで無力なのだろう。
だめなのは私だけのように思えました。
直ちに筆をとって、被災者に向けた作品を綴った書き手の方々も沢山いらっしゃったのですから。
そんなひとたちの勇気がまぶしく、同時に恐ろしく思えました。
ひとに近づきすぎた言葉はこわい。
誰かを怒らせるかもしれない。
誰かを傷つけるかもしれない。
誰かを巻き込んでしまうかもしれない。
北海道新聞の13日朝刊には
『笹井宏之作品集 えーえんとくちから』書評が掲載される予定でした。
私の書いた初めての一般新聞での書評です。
夜に思い出して、実家へ問い合わせると、ちゃんと掲載されているとのこと。
世の中はいつも通りに動いている、という手触りを得て、泣きそうになりました。
自分の書いたものにこれほど励まされたのは初めてのことでした。
励ましの言葉もいただき、奮い立たされました。
15日から17日、サークルの合宿で京都に滞在。
正直、このような状況では気が進みませんでしたが、
テレビやラジオから切り離された生活は、間違いなく私の心を軽くしてくれました。
宇治の澄んだ空気とお茶に感謝。みそひと文字、そしてタロット占い。
行ってよかったと思います。
滞在中、福島在住の詩人、和合亮一さんのツイッターを発見しました。
こちらです→http://twitter.com/wago2828
被災地の悲痛な現実を、真っ向から綴られています。
と同時に、和合さんの言葉には、詩への誇りがみなぎっているようです。
詩が確かに私の心へ届き、降り積もりました。
詩の、こんな力強さを知りませんでした。
和合さん、ありがとうございます。
本当の勇気を教えてくださったこと、心から感謝します。
「詩が何の役に立つのか」
くさくさ考えていた自分が、ひどく恥ずかしくなりました。
ただ書き続けるしかないのだ、と。
その一歩として、この記事を書きました。
日常に戻りましょう。
滞っていた仕事に、きちんと立ち返ります。
ごめんなさい。
一ヶ月前に予約した飛行機で、
19日、予定通り札幌に帰ります。
by moonpower0723
| 2011-03-19 02:24
| しるし