東直子『愛を想う』から
2010年 03月 13日
み そ ひ と も じ
短歌と、絵の本。
図書館に返却する前に、記録を取る。
木村達朗さんの温かみのある色づかいと、東直子さんの芯のあることばたち。
短歌というかたちに落とし込まれた、愛おしい日常の風景。
気に入った歌を8首、紹介させていただきます。
かわくとき少し反るのがいとおしくサンドイッチをはさむてのひら
いっしんにねじこんでゆくコルク栓どこで生きてきたとしたって
わたしすぐ死ねって思うし口にするから川をみにゆかなくちゃ
忘却のこめかみが身体じゅうにあるようなアゲハチョウの幼虫
ふりかえればあかるくわらうおもいでもあおぞらあおぞらあおむけで寝る
思ったこと溢さないよう立ち上がるわたしはわたしを恐怖している
ここで泣いた。思い出した。生きていた。小さな黒い虫になってた。
あかいあかいゆうひのなかにだめになりそうなあなたがいそう、いそうだ
好みの問題でしかないのだけど、
モチーフ(食べ物、生き物)や、色が目に浮かんでくるものに
私はつい惹かれてしまうようだ。
「わたしすぐ死ねって思うし――」の歌は、重い内容なのに
何度も唱えたくなってしまう恐ろしさがある。三十一文字のマジックか。
描きこみすぎていない木村さんの絵が心地よい。
色だとか、描かれている物だとか抜け落ちた部分が
東さんの短歌の喪失感と程よく響き合っている。
正直なところ、歌集のタイトルを見た時にある固定観念が発生し
(「思う」を「想う」と書く神経も生理的に許せないのだ。
小学生時代に「片思い」を「片想い」と交換日記に記した甘ったるい同級生を思い出させるから)
借りることを躊躇したのだが、中身を見て率直に「いいな」と思った。
東さんは平仮名のやわらかさが好きなのだなあ。
あとがきも、平仮名と行分けが多くて浮遊感があり、詩のような文章だった。
ふうせんがぱんぱんになって、
こわれそうになると
わたしもひらがなで文をつむぎたくなる、このように。
by moonpower0723
| 2010-03-13 17:07
| ことば